今日、新しい発見や技術が生まれるスピードは驚くほど速くなっており、市場での独占期間が大幅に短縮されています。企業は互いに競争するだけでなく、時間との戦いにも直面しており、新しいイノベーションを最初に発見し、特許を取得し、市場に出すためにしのぎを削っています。
その結果、「タイム・トゥ・マーケット(市場投入までの時間)」という概念が、R&Dにおいてますます重要な指標となっています。プロジェクトのタイムラインが遅れることは、競争優位を失うことや、重要な市場機会を逃すことを意味しかねません。この時間的なプレッシャーは特に製薬業界で顕著であり、特許の期間や競合する研究のスピードが、企業の市場シェア、収益性、そして全体的な投資収益率に大きな影響を与える可能性があります。
最終的に、この競争はR&Dプロセスにおけるスピードと効率性の追求をますます加速させています。
企業が内部チームやワークフロー、プロセス、技術リソースをどれだけ効果的に最適化し、品質やコンプライアンスを損なうことなくこれを実現できるかが、成功を確実にするだけでなく、ますます競争が激化する世界における長期的な持続可能性と成長の道筋をも決定します。
R&Dの技術システムの「現状維持」を手放すとき
R&Dにおける効率性という概念は、単なるコスト削減にとどまりません。この文脈での効率性とは、ワークフローやR&D組織やチームが利用している技術システムの現状を再評価することも意味します。科学的研究をより速く進めなければならないというプレッシャーや期待があるにもかかわらず、ほとんどの業界の研究所は依然として伝統的な方法や官僚的なインフラの中で運営されています。
ここでは、現状に挑戦し、効率性を高めるための機会を発見する戦略を紹介します。これらの戦略は相互に関連しています。
内部プロセスの簡素化
R&Dにおける効率性向上の取り組みは、通常、研究所内の科学的ワークフローの最適化から始まります。エンソートは20年以上にわたり、この最適化を支援してきました。その中で気づいたことは、R&Dがその技術資産をどのように利用するか、または利用しないかに影響を与える、研究所外のワークフローが見落とされがちである、ということです。
特に大企業では、R&Dが必要なアクセスや技術リソースを手に入れるために、数週間、数ヶ月、さらには数年もの間、作業を遅らせざるを得ないことがよくあります。
これらの研究所外のボトルネックの原因は何でしょうか?伝統的なITインフラでは、標準化、効率性、リスク回避が優先されており、科学研究の進め方とは一致していません。R&Dでは、発見のための反復的な実験プロセスが重要です。実験プロセスでは、失敗は単なる可能性ではなく、発見にたどり着くための重要なプロセスの一部です。
これは、他のビジネス分野における一貫性や予測可能性をゴールとした、より硬直的で標準化されたシステムとは異なります。その結果、デジタルツールと実際のニーズが一致せず、誤ったソリューションの評価や導入に貴重な時間とリソースを無駄にすることがよくあります。次の項目で取り上げますが、適切な技術スタックがこの問題の解決に役立ちます。
R&Dの技術スタックを再評価する
誤った技術スタックは、導入後も長期にわたってコストと時間を無駄にします。多くのR&D技術スタックは、専門的なデータや分析ツール、プラットフォームの寄せ集めです。一部はうまく機能しますが、非常に使いづらいものもあります。また、前述のような不一致が原因で、どのツールも対応できない独自のニーズが生じることもあります。このようなツールやソリューションの寄せ集めが、R&Dの非効率を大きく助長しており、定期的な再評価が必要です。
特に、技術の進歩がかつてない速度で進んでいる今日では、この再評価が非常に重要です。クラウドコンピューティング、先進的なデータ分析、セキュアなコラボレーションプラットフォームなどの技術は、R&Dの効率性とスケーラビリティを大幅に向上させます。また、技術スタックが使いやすく、R&Dチームのスキルセットに合致していることを確認し、混乱を最小限に抑え、迅速な導入を促進することも重要です。この技術スタックの最適化の継続的なプロセスにより、R&D組織は最新のツールを備えるだけでなく、新たな科学的課題や機会にも迅速に適応できるようになります。
AIの活用
もちろんAIを抜きに語れません。人工知能(AI)が研究所の運営方法や科学の進め方を革新する力は、今や広く知られています。様々な調査によると、製薬業界だけでAIへの総支出が2025年までに30億ドルを超えると予測されています。
AIは、プロセスの最適化や意思決定の強化に活用でき、かつては想像もできなかったようなブレークスルーを可能にします。AIアルゴリズムは、データ分析、文献レビュー、実験デザインを自動化し、時間と労力を大幅に削減します。また、AIは大量のデータを効果的に管理し、他のデータセットとの関連付けも行うことができます。これらすべてを、人間の能力をはるかに超える速度で実行します。AIによる反復作業の自動化やワークフローの最適化により、これまで数日、数週間、あるいは数ヶ月かかっていたプロセスが、数分、数秒に短縮されることもあります。
プレッシャーを受けている研究所は、時間とリソースを大量に消費する従来の研究方法では、タイム・トゥ・マーケット競争で効果的に戦うことができなくなっています。今日の科学研究開発では、科学者の仕事を補完し加速するために、AI(および機械学習)を活用することが求められています。
課題を明確にするための質問集
ここで紹介した戦略が、貴社の研究所やR&D組織における効率化について、新たな視点から考える手助けとなれば幸いです。これらは数ある戦略の中のほんの一部ですが、技術者にとっては最優先の課題です。話し合いを促進するために、以下の質問に、チームで、または自分自身で取り組んでみてください。
戦略1: 研究所における調整の課題を評価する
- コンピューティングリソースのリクエストにどれだけの時間がかかっていますか?
- 科学者たちはデータやツールに自分でアクセスできていますか、それとも毎回IT部門を通してセットアップしてもらう必要がありますか?
- 計算科学者やデータチームがデータ製品を開発から展開、利用までにどれくらいの時間がかかっていますか?
戦略2: R&Dの技術スタックをシステムレベルで考える
- ワークフローのボトルネックはどこにあり、どのツールが非効率を助長していますか?
- 機能は豊富でも柔軟性や拡張性に欠け、回避策が必要なツールはどれですか?
- 即座にエンドユーザー(科学者)を支援できるツールはどれで、導入に多くの人手が必要なツールはどれですか?
戦略3: 研究所がAIに対応できるかどうかを評価する
- 市販のAIソリューションで十分ですか、それともR&Dの技術スタック(戦略 2)に、ニーズに合わせてAIをカスタマイズできるプラットフォームがありますか?
- AIツールへのアクセスや導入を妨げる内部プロセス(戦略 1)はありますか?
研究開発を効率化するためのアセスメントの支援にご興味がございましたら、お問い合わせフォームからご連絡ください。
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