デジタルトランスフォーメーション vs. デジタルエンハンスメント: 研究開発における技術イニシアティブのフレームワーク

生成AIの登場により、研究開発の方法が革新され、前例のない速さで新しい科学的発見が生まれる時代が到来しました。研究開発におけるデジタル技術の導入は、競争力を向上させることが証明されており、企業が従来のシステムやプロセスに固執することはリスクとなります。デジタルトランスフォーメーションは、科学主導の企業にとってもはや避けられない取り組みです。

デジタルトランスフォーメーションへの道のりは、組織と人材の成長と変革の道のりです。多くの組織では、変化への抵抗力が存在するため、変革へのプロセスを推進するためには、優れた戦略や計画とそれを遂行する強力なリーダーシップが必要です。
本記事では、イニシアティブの期待値と目標を一致させるために役立つ、戦略策定のためのフレームワークをご紹介します。

技術変革イニシアティブの4つのカテゴリー

デジタルトランスフォーメーションを効果的に実行するためには、デジタルトランスフォーメーションが、新しい技術やツールの導入にとどまるものではなく、業務のプロセスや考え方を根本的に改革してビジネス価値創出に結びつけることを目的としていることを意識して取り組む必要があります。

下図は、変化への影響力と推進力基づいて、企業環境における技術変革イニシアティブを4つのカテゴリーに分けたものです。図が示すように、デジタル技術が、改善や強化など非変革的な目的で使用されることもあれば、逆に非デジタル技術が大規模なビジネス変革をもたらすこともあります。

影響の程度は、技術がもたらすものだけでなく、その技術を使用して業務のプロセスや考え方をどのように変革するか(またはしないか)によって決まります。

企業における変革イニシアティブ

 

まず、非デジタルとデジタルの区分を見てみましょう。例えば、鉛筆、タイプライター、移動組立ラインなどは、非デジタル技術に該当します。これらはすべて非常に価値のある非デジタル技術であり、その中には産業において変革をもたらしたものもあります。しかし、本記事では、生成AIのようなデジタル技術に焦点を当てます。

次に、エンハンスメント(強化)とトランスフォーメーション(変革)の区分を見てみましょう。最先端のデジタル技術を含むすべてのデジタルイニシアティブが変革的であるわけではありません。それぞれの変革には異なる目標、利点、意味がありますが、最も重要なのはビジネス価値です。こうした区別を認識つつ、戦略や計画を立てることで、現実的な期待値、意思決定、取り組み方を最終的な戦略目標と整合させることができます。

デジタルエンハンスメント(強化)とデジタルトランスフォーメーション(変革)の違い

デジタルエンハンスメント

デジタルエンハンスメントとは、技術が導入されるものの、業務の遂行方法には大きな変化がない場合を指します。多くの人が、AIノート取りアプリやChatGPTを使用して文書を要約したり、メールを作成したりすることで、すでにAIによるエンハンスメントを経験しています。IT部門が手動でのデータ作業を代替する自動化SaaSプラットフォームを導入する、などは素晴らしい技術の応用例であり、非常に価値があり、かつ取り組みやすいものですが、これらがビジネスを変革することはありません。ノート取りアプリを導入したり、手作業を汎用ソフトウェアツールで置き換えたりするだけでは、次のデジタルユニコーンにはなりません。

段階的なデジタルエンハンスメントがデジタルトランスフォーメーションやイノベーションと誤解されることがよくあります。

デジタルトランスフォーメーション

先進的なデジタル技術がもたらす大きなビジネス機会を捉えるためには、これらのエンハンスメントに加えて、デジタルトランスフォーメーションも必要です。ビジネス変革のために技術を導入するということは、段階的な改善ではなく、部門や事業単位での業務プロセスを根本的に変革し、より大きなリターンを目標にするということを意味します。

以下の図は、トランスフォーメーションとエンハンスメントの違いをまとめたものです。科学研究開発においては、デジタルトランスフォーメーションは科学研究の進め方そのものを変えます。デジタル技術を活用することで、科学的発見とイノベーションは従来の手法による制約から解放されます。例えば、データサイエンスと材料科学および化学の革新的な組み合わせであるマテリアルズインフォマティクスは、材料の発見と開発プロセスを数十年という単位で加速させることができます。これこそが変革であり、ビジネスの方向性や企業の市場での地位を根本的に変えることが可能です。

デジタルエンハンスメントとデジタルトランスフォーメーションのイニシアティブは、相互排他的なものではありません。実際、戦略的に計画・実行すれば、デジタルエンハンスメントのイニシアティブは短期的な成功をもたらしつつ、長期的には大きな変革に寄与することができます。このようなアプローチは、リーダーがデジタルトランスフォーメーションがもたらす高い価値創造の機会を追求しながら、変革に通常伴うリスクを軽減することができます。

エンハンスメントとトランスフォーメーションの違い

科学研究開発におけるデジタルトランスフォーメーションの成功率を高めるために

どのような業界においてもデジタルトランスフォーメーションは難しいものですが、科学研究開発(R&D)においてはさらに困難です。R&Dでは、技術インフラ、人的資源、プロセスへの影響だけでなく、科学的研究プロセスやデータに関連する複雑性も考慮する必要があります。

経理部門などで使用される標準化されたデータとは異なり、科学的R&Dデータはその特性により特別な取り扱いが求められます。成功するためには、全体的なデジタルトランスフォーメーション戦略の深い理解だけでなく、材料科学や化学などの特定の分野におけるデータ、プロセス、および概念に関する専門知識も不可欠です。この科学とデジタルの交差点こそが、エンソートが得意とするところです。

繰り返しになりますが、R&Dリーダーとしてデジタルトランスフォーメーションに取り組む際の重要な第一歩は、真のデジタルトランスフォーメーションとは何かを理解することです。それは、単なる強化や代替を超えた技術の活用とプロセスの変革、そして、そこからもたらされる指数関数的なビジネス価値と持続可能な競争優位性です。デジタルエンハンスメントにも利点がありますが、それがデジタルトランスフォーメーションと同じ結果をもたらすと期待するのは、挫折を招くだけでなく、将来の変革的イニシアティブへの支持を失う可能性もあります。

R&D組織のデジタルトランスフォーメーションの取り組みを始めるためのさらなるヒントについては、「未来保証型研究開発ラボへの第一歩を踏み出す5つのヒント」をご覧ください。 

 

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